ヒロインだったはずが最後には「魔王」などと表現されてしまう彼女。
彼女は実際に
「――きょうちゃんは、ごく平凡な男の子なんだから」
『普通の兄妹に――――なりなさい』という京極夏彦作品なら言霊や呪と表現される言葉を桐乃と京介に伝え、結果として今の二人を産んでますから、この作品の状況を創りだした影の支配者と言ってもいいポジションなのは確かです。
しかし、11巻で語られたように限界だった京介の頑張りを否定して助けたこと、その言葉で成長した京介によって海外留学で潰れそうだった桐乃が助けられたこと、さらに昔の彼では桐乃の想いに答えられずに兄妹の関係が破綻していた可能性が高かったこと、彼女の言葉によって桐乃と京介は救われていたのです。
彼女は京介にとって倫理、平穏、日常といったものの象徴であり、Fateにおけるラスボスが「この世全ての悪」であるなら、麻奈実は俺妹の世界における「この世全ての善」と呼べる存在と言えるでしょう。
アニメ化に際して最も表現不足になったヒロイン
桐乃と動揺に複雑な表現がある人物なだけに、アニメ化に際して描写不足で一番割りを食ったポジションだと思います。
アニメではその善性しか描かれなかったのですが、原作だと人間として、女の子としての部分がしっかりと掘り下げられています。
それはもう別人と表現してもいいぐらいに。
なので京介と桐乃に感情移入しながら見た私には、最初にアニメを見た時は心底嫌いになりましたが、原作を読んでから真逆と言って良い程に見え方が変わりました。
原作の麻奈実は可愛いかった!
もう同じキャラクターとは思えないですよ!
桐乃、黒猫、あやせ等他のヒロインもアニメではカットされている良い話は沢山あるのですが、一人を上げるならば麻奈実しかいません。
- 京介が心配する黒猫に嫉妬して自己嫌悪する
- 11巻での桐乃との会話に登場する過去の行動
- 彼女の一人称視点になる可奈子との会話
- 京介の為に自身を磨こうという決意して髪を伸ばす
- 12巻対決での「節目だから」に続く彼女の意図
- 京介の麻奈実の意図を解説する独白
京介の為に外見を磨こうとする点と、なによりも卒業式の対決の真意を表現する描写で、本当に印象が変わりました。
麻奈実との卒業式後の対決は、アニメでは倫理の体現者を相手にする印象でしたが、小説では京介を心配する女の子が説得しようとしている、というぐらいに見え方が違います。
卒業式の対決の真意
卒業式の対決は、彼女の意図を気づかせる大事な描写が尽くカットされています。
「節目だから、かな」
涙ながらの愛の告白ーーそれはあまりにもタイミングが悪すぎて。だから察してしまった。
ああ、分かってるさ。だからいま、告白したんだよな。これらがないと、彼女の行動が京介への恋心から、京介を取られた腹いせに倫理を盾にして二人を糾弾しているだけのように受け取れてしまいます。
しかし上記の内容から彼女の意図を把握すれば、自分の恋心のために二人の関係を否定するというのは二の次であり、京介に兄妹での恋愛の困難を再確認させ、それでも意志を曲げないのか問いかけているということに気がつけます
なぜならこの時点で京介は桐乃との関係を期間限定で終わらせないと決意しており、最初に語る節目とは京介が桐乃との関係を諦める最後の瞬間を指しています。
(京介の決意についてはこちらで解説しています)
最後の対決を、京介のために自分の恋心すら犠牲にした献身としてその言葉を読み返すと印象が全く変わります。
頑なに二人の関係を認めない理由。
彼女にとって倫理がどうのといったことは本来は瑣末なことで、単純にそれが京介が普通の幸福を得られる道ではないからです。
黒猫との関係を祝福したように、彼女の行動原理は京介が幸せになれるならば自身の想いすら切り捨てることを厭わない。
だから「誰も言わなかったみたいだから、わたしがはっきり言ってあげる」のは、京介と桐乃の友人達が最終的に皆二人を祝福したが故に、誰かが突きつけなければならない事実を語るという悪役をあえて引き受けているのです。
告白という自分が差し出せる全てをかけて京介を止めようとするのは、自分が与えられる平穏な日常と、桐乃との恋愛関係は相容れないからです。
京介が「桐乃を選ぶ」と決意すれば、もう彼のためにしてあげられることがない。
そして京介を理解している彼女は、彼が一度決意したことを曲げないということも知っている。
だから絶対に失敗するという「タイミングが悪すぎ」る告白をすることになる。
あの告白とは自分のためではなかった。
可能なら彼が困難な道を選ぶことをやめさせたかったが、それができないなら自分という最後の逃げ場を失わせ、苦難に立ち向かわなければならない京介に覚悟させるための告白だったのです。
総論
卒業式の対決での彼女は魔王ではなく、最後の敵に挑む京介に「そんな覚悟で大丈夫か?」と警告してくれる存在だったというわけです。
京介への「愛」という点では、本作品で最強だと思いますね。
恋愛だけではなく、母性愛や友情も全て含んで京介を幸せにしようとしている。
京介との関係性の描写が薄く、親子というよりも姉のような京介の母親より、よほど母親としての役割を負った存在であったと言えるでしょう。
つまり京介はシスコンでありマザコンというハイブリッドであったと。
最後まで明かされませんでしたが、麻奈実はなぜここまでの愛を京介に対して抱いたのでしょう?
「お兄ちゃん」への憧憬に似た恋心とその断絶から、京介の行動を見て現在の彼に惚れていく過程が描かれた桐乃と違い、麻奈実がこれだけの無償の愛を京介に向けた理由が俺妹最大の謎かもしれません。
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