2014年3月6日木曜日

俺の妹がこんなに可愛いわけがない 京介の三年前に好きだった人

今回は、京介の過去の恋愛について考えてみようと思います。

問題になるのは幼馴染として、桐乃と対立構造にあった存在の麻奈実。
この物語においては、妹である桐乃とそれ以外の異性との対立構造という意味で、黒猫やあやせの存在を含めて麻奈実が代表しているんですね。
第一巻以前から存在していた三角関係が広がっていき、多くのヒロインが登場しつつも、最終的にはまたこの三人の対立構造として締めるという構造です。

重要なのは11巻での秋美の告白に対する答え
「三年前でも、いまでも、答えは同じだ」
泣きながら伝えた。
「ごめん、俺、好きな奴がいるんだ」
俺は今度こそ、自分から告白すると決めたんだ。
その後の12巻でのネタばらしとして
「あたしてっきり『あの人』のことだと思ってたよ!『三年前もいまも答えは同じ』なんてゆーからよぉ~~!三年前から妹のことが好きだったの?」「いや、三年前に好きだったやつといま好きなやつは違うよ?」
「あの人」は秋美との人間関係から言って麻奈実を指しているのですが「三年前に好きだったやつ」は麻奈実なのかどうか?

まず、こういう演出になった一つの要因は、12巻へ向けて読者の興味を煽る為に京介が麻奈実の事が好きなのかとミスリードさせる為ですね。
桐乃への告白シーンでも「俺、好きな人がいるんだ」の後に、あえて言う必要のない「……ごめんな」を付けることで彼女以外の誰かを選ぶのかとミスリードさせるなど、後半はとにかく読者の予想を混乱させるための演出を多様してきます。
この「ごめんな」はアニメ版14話でカットされていますが、さすがに時系列で考えると、兄妹へ告白しようとしていることへの謝罪と考えても、この流れで言うのは京介の意図が不明瞭ですね。

本編での京介は赤城との会話で「麻奈実に言い寄る男は許さない」という発言や、3巻での
すっと身を乗り出して、顔を寄せてくる麻奈実。悪戯っぽい笑顔で、そっと耳打ちしてくる。
「……やっぱり一緒に入る?」
「……!?」
恥ずかしがらせるための策略――冗談だと分かっちゃいる!
だが俺は、不覚にもかなり同様してしまった。
というように、全く異性と思っていない訳ではない。

しかし、3年前に麻奈実が好きだったと仮定した場合、二人の中が一切進展しなかったのは何故なのでしょう?
作中でも頻繁に麻奈実からのアタックはあり、京介が少しでも乗り気になれば一気に進展した可能性が高かったにも関わらず。

この回答を導くために必要となるのは、麻奈実との対決の後の一文
きっとこれが俺たちの、始まりすらしなかった、初恋の終わりだった。
の解釈ですね。
ここで主語が「俺たち」である点が重要です。
この一文の直前に麻奈実から告白されているので、当然麻奈実から京介に恋しているのは確定している。
しかし彼の行動から、京介が麻奈実に恋をしているというには不自然な状況なので、彼には恋人を選ぶという状況を意識しなければならなくなるまで自覚がなかったとするしかないでしょう。
「三年前でも、いまでも、答えは同じだ」 
という当初の一文から、3年前に秋美から告白された場合に、麻奈実との関係を天秤にかけて、好きな女性を選ぶとしたら麻奈実を選んでいた
ということなのではないでしょうか。

つまり、過去において秋美が事故に合わずに告白を成功させていた場合、それにより京介は誰かを選ぶ決断をせざるを得なくなる。
彼を「死んだ魚の眼」とまで表現される程に無気力化させ、結果として麻奈実が望むような京介にさることになる一件がなければ、実は「まなみん大勝利」だった可能性が高かったのではないでしょうか。

あの事件自体は誰が望んで行ったものではない悲劇なのですが、京介を自身が望む状態に変化させ、結果として最初の桐乃の京介への恋心を破綻さることになった事件によって、彼女もまた同時に失敗していたというのも皮肉な話です。



追記

もう一つの理由として、京介は麻奈実をよく「おばあちゃん」に例えます。
彼にとって異性の肉親という表現方法です。
そして8巻では彼女のことを
あるときは母親のようで、またあるときは祖母のようで。妹のようで姉のようで、本当の家族のような――幼馴染。
と表現しています。
京介が麻奈実を好意的に見ていても、最後まで異性として選べなかった最大の理由は、物語の開始時に妹よりも肉親としての親愛を感じる存在だったからではないでしょうか。

高坂家の中で、京介達の父親は人物像を掘り下げて描かれるのに対して、母親の影は薄く描かれています。
決して京介の母親が彼を愛していない訳ではないのですが、京介の視点においては桐乃に比較して両親の愛情が不足していると感じている。
実際に10巻にて受験の為の一人暮らしを言い渡された京介自身が
考えてみりゃさ、俺、親からこんなに干渉を受けたのって、生まれて初めてじゃね?親父もお袋も、昔からずーっと桐乃桐乃桐乃桐乃で、優秀でも華やかでもない息子の受験なんざどうでもいいもんだとばかり思っていたんだけど。
というように語っています。
両親の愛情という点では、桐乃に対して軽い嫉妬を覚えている節がある。

その愛情の欠落を埋めるための、京介にとっての精神的な母親の位置を麻奈実は占めていたのではないでしょうか。
母親よりも母親のように感じていた存在だからこそ、彼女を異性としてみることが最後までできなかった。
「たとえば……他の男が田村さんに言い寄っても、おまえは構わないっての?」「は? そりゃ構うよ。ダメに決まってんだろ。誰だその物好きは。ぶっ飛ばすぞ」
という2巻での赤城とのやりとりも、好きな女の子への素直になれない反応という普通の見方という以外にも、母親の再婚相手に対する息子のような、親しい肉親に近づく人間への忌避反応という取り方もできます。

なによりも麻奈実が京介が三人目の親と呼べる存在であったという表現は、12巻で語られています。
麻奈実が言っているのは『俺と桐乃が付き合っている』件についてだろう。(中略)けれど麻奈実には、何一つ告げていなかった。(中略)それでも俺は、この話を内緒にしていた。親父やお袋と、同じ理由でだ。
8巻の後半で京介は麻奈実から「分かるよ。わたしも、きょうちゃんのことが好きだから」と好意を打ち明けられている。
しかし最後まで彼女に桐乃との関係を言えなかったのは、自分へ恋をしている異性への配慮ではなく、あくまでも両親への配慮と同じ理由なんですね。

そして二人の関係において麻奈実もまた同様の精神構造を持っています。
京介が他の女性、黒猫やあやせと付き合った時に、悔しさを覚えつつ彼が幸せなら祝福しようとする。
この自身を殺しても相手の幸せを願うという見返りを求めない心の動きは、母親の息子に対する感情に近いんですね。
京介と比較すれば、彼女にとっては彼は愛する異性という側面が強いのですが、同時に愛する息子のような存在だったのです。

彼女が否定してきた近親相姦、インセスト・タブーという概念。
しかし家族という概念は肉体的なものだけではなく、精神的にも存在する。
京介と長い年月を過ごすことで築いた擬似的な母子関係によって、彼女の恋は報われなかったのではないでしょうか。

0 件のコメント:

コメントを投稿